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『Oni』
少年が 鬼 になったのは
真っ青に熟れた唇のせい
誰も泣かないで済むようにと
笑い続けて裂けてしまった
少年が 鬼 になったのは
真っ赤に膨れたお腹のせい
誰も傷つかないようにと
『きょうき』をそっと飲み込んでいた
少女は言う 彼の愛読書は
微笑み合う 優しい世界の話
見つけたのは窓際の向こう
千切れた表紙に 人ならざる者
鬼さんこちら 手のなる方へ
正義を謳ったヒーロー達が
何も言わずに 話も聞かずに
よってたかって 殴るのをみていた
ゆらゆら揺れる
ゆりかごがきしむ
ここは駄目だよ
ほら、目を 覚まして
表紙を繋ぐ 落書きを落とす
少女の頬を伝う滴がなぞる
桃の印
少年が 動かなくなったのは
笑顔が なくなる前のこと
誰かの為にと生きた答えは
誰にも 愛されないこと
少女は知る大きな背中が折れ
そこから私を指差し笑う声
「お前がやったんだ 」
「お前が悪かったんだ」
微笑み 少女は 鬼になった
立ち入り禁止を蹴っ飛ばして
戯言も罵声も吸って吐いて
何も もう何も救ってたまるか
ぶつかる肩を掴んで殴って
睨む瞳を潰してまわって
これがあなたのあるべきお話
降りかかる火の粉に傘をさして
震える指先に釘を刺して
何も もう何も救ってたまるか
癒えぬ傷 頬に辿る 赤い雨
憂さえ 乾きさえ ああ消せない 消えない
戻れない 戻れないな
癒えぬ傷 頬に辿る 赤い雨
憂さえ 乾きさえ ああ消せない 消えない
戻れない 戻れないな
癒えぬ傷 頬に辿る 赤い雨
憂さえ 乾きさえ ああ許せない 許さない
誰か許してよ
鬼さんこちら手のなる方へ
少女が 鬼 になってから
争いごとはなくなっていった
少年の 墓の前には
一本のナイフと世界平和
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